2014年の全米オープンテニス。
錦織圭選手の、日本人初となるメジャー大会での決勝進出は大きな話題になりましたね。
これは、偶然の結果だったのでしょうか?
たまたま、これまでの努力が、この日になって花開いたのでしょうか?
私は、あらゆる選手が目標とし、照準を絞り、出せる力を振り絞って戦う、メジャーの
大会で、「偶然にも勝ってしまう」なんてことはありえないと思っています。
結果があるなら、原因がある。こう思っています。
【原因1】
まずは、これまでの努力という土台があったことは言うまでもないでしょう。
幼少から英才教育を受け、13歳で渡米。その中で、最大の武器である素早さを生かした
攻撃パターンを磨き上げたという要素があるでしょう。
実は、2014年の1月に、私自身、錦織選手が所属するフロリダのIMGアカデミーに行き、
大人向けのレッスンを受けてきました。その時に私のコーチをしてくれたジミーさんが、
「ニシコリはクリスマスの日もガラガラのコートで、コーチと2人で練習していたよ」と
教えてくれました。
【原因2】
さらに、心理学的な理由があります。これまで、男子のメジャー大会のほとんどは、
いわゆるビッグ4(フェデラー、ナダル、ジョコビッチ、マレー)が優勝してきました。
この勢力図が目に見えて変わりだしたのが、今年。錦織もビッグ4ではない同年代選手が
大きな大会で活躍する姿をみて、3つの感情が今まで以上に強く湧いてきたことと思います。
私の想像にすぎませんが、以下の3つです。
1.「ビッグ4じゃなくてもできるんだ」
2.「あいつら(同年代選手)にできるなら、俺にもできる。
3.「メジャーで勝ちたい!」
【原因3】
最後に、新コーチの存在があります。
錦織圭選手の活躍とともに、脚光を浴び、メディアにも大きく取り上げられているのが、
2013年の12月から錦織圭選手のコーチを務めているマイケル・チャン氏です。
昔からテニスをやっている方であれば、知っている方も多いでしょう。
台湾系のアメリカ人で、テニス選手としては身長は低いながらも、抜群のフットワークと
ストロークの安定感で17歳でメジャー(全仏オープン)を制した名選手です。
チャン氏就任後の、2014年5月には、錦織選手は、日本男子初のシングルスの世界
ランキングトップ10入りを果たしています。
今回の錦織選手の躍進の理由としてメディアも「メンタルの強化」とか「感情コントロール」
とかいう言葉で表現しています。そして、コーチのマイケル・チャン氏の存在があったという
のが一つの見方です。
つまり、
・これまでの努力により、素早さを武器としてポイントをとる技術を磨き上げたこと
・同年代選手の活躍をみて、自信とモチベーションがこの上なく高まったこと
・これまで十分に鍛えられていなかったメンタルコントロール力が、今年に入って
急激に高まったこと
この3つの原因が重なって、全米オープンの準優勝という結果につながったのだろうと
分析しています。特に3つ目の理由が、今年になって付け加わった要素ですので、
これが、3~4回戦までしか進めなかった錦織選手と、世界のトップランカーを数人破り
決勝まで進むことができた錦織選手の差を生み出していると考えても、無理はないでしょう。
さて、この記事は、「評論家」のように起こったことを分析するために書いているのでは
ありません。そうではなく、ここから何かを学び、私たちの日々をよりよくするために
何ができるかを考察し、実行するために書いています。
そこで、考えないとならない質問が2つあります。
・メンタルを強くするということは、錦織選手のようなトッププレーヤーだけのものなのか?
・メンタル強化を教えるということは、マイケルチャンのように世界のトップを経験した人
だけが教えられるものなのか?
もちろん、その答えは「ノー」です。
メンタルを強くすることは、誰にでもできることです。(そして効果は絶大です)
メンタル強化を教えることも、きちんと学べば、誰にでもできることです。
そんなわけで、これから簡単にできるメンタル強化方法を教えたいわけですが、それが意味
することが何なのか、最低限の知識をもっていただく必要があります。
なぜかというと、「メンタル」と聞いても、思い浮かべる内容は人によって全く違うもの
であるかもしれないからです。
メンタルが強いとは
・うまくいっていなくても、それでも次は取れると楽観的な気分を作れる
ことではありません。
1.達成するのが困難な、高いところを目指している
2.手を抜くことなく、徹底的に準備をしている
3.「今、ここ」だけに意識を合わせることができる
この3つを満たすことが、強いメンタルの条件になります。
上から順番に、より短い時間での話になります。
1番は1年~3年くらいの単位の話、2番は1日~数ヶ月単位の話、3番は1秒~1時間
くらいの単位の話です。
これを実践するということは、「生き方そのもの」が変わるといってもいいくらいです。
【高いところを目指す】
2011年、スイス・バーゼルで、当時の世界チャンピオンのフェデラー選手と
大会決勝戦であたることになった錦織選手のインタビューがあります。
準決勝の勝利の後、錦織選手は『憧れのフェデラー選手と決勝で当たるなんてワクワクします』
とコメント。フレッシュで、気持ちのいいスポーツマンだと好感を抱いた方も多いでしょう。
その後2011年11月、有明で行われた震災復興チャリティイベントで
チャン氏と、錦織選手が共演。その時チャン氏は、バーゼルでの大会を振り返り、この発言を
バッサリと切り捨てます。
(動画を見たい方はコチラ)
VIDEO
「コート外で選手を尊敬するのはいい。けれども、戦う前から満足してはいけない。
一度コートに入ったら『お前はオレの行く手を遮る邪魔な存在なんだ』と思うべき。
『優勝するのはお前じゃなくて、オレ』、『この試合の勝敗に、過去の実績なんて関係ない』と
いう強い気持ちが必要なんだ。相手が誰であろうと勝つことだけを考えるべきのだ」
錦織選手は、決勝まで来たわけです。
今までは、「フェデラー選手と対戦すること」が達成するのが困難な、高いところだった
わけですが、成長するにつれて、それは「もう少しで手が届く目標」になってしまったのです。
この時点で、錦織選手は自分の目標をさらに引き上げるべきだったのです。
決勝に来たことで、すでに目標は達成。もう、満足です。
こんな気持ちでは、強い気持ちは作れないのです。これが1つ目のポイントです。
【徹底的な準備】
2014年の全米オープン(9月)。
4回戦で、5セットの激闘を終え、ラオニッチを下したのがなんと午前2時26分。
次の日の朝、錦織選手はwowowのインタビューで、こういっています。
「次の試合に向けて、気持ちも少し高ぶって、あのーReadyの状態になってきてます」
続く準々決勝では、第3シードのワウリンカ戦でも5セットの末の勝利。
そんな錦織選手に、アメリカでは有名なスポーツ専門チャネルESPNが付けたニック
ネームが「マラソンマン」
(動画を見たい方はコチラ)
http://espn.go.com/video/clip?id=espn:11461612
なんと錦織選手は、5セット目に突入した試合の勝率が、現役選手だけでなく、
歴代1位という記録を保持しているのです。これには、とんでもなく強靭な気持ちが
必要なことは言うまでもありません。
そして、準決勝では世界ランキング1位のジョコビッチを破り、決勝に進出したことは
ご存知の通りです。
決勝の進出前、錦織選手が語ったこと
「しっかりと気持ちの準備を整えておきたいですね」
(動画を見たい方はコチラ)
http://st.wowow.co.jp/detail/5001
体調面の話をする前に、メンタルを整えることを口にしたのです。
インタビューを受けるたびに、次の試合の準備のことを口にしています。
でも、気持ちの準備って何なのでしょう?
念仏のように、「俺は勝てる、絶対勝てる」と何度も何度も言い聞かせるようなイメージを
もたないでください。
体力の回復、ケガの治療、次の対戦相手の分析と作戦立案。実際にやることはこんなことです。
やるべきことをきちんとやることが、不安を取り除くことになり、結果として気持ちの準備が
整うことになるのです。
「やるべきことは全部やった。これさえ実行すれば、勝てる可能性は十分過ぎるくらいにある」
このように心の底から信じられるようにすることが、準備なのです。
心の底から信じられるためには、「根拠」が必要です。だから、勝つためにできるあらゆる
ことを実際にやるわけです。
【「今、ここだけ」を意識する】
最後に、実際の試合に入ったあとの、狭い意味でのメンタルコントロールがこれです。
・マッチポイントがくると、ドキドキします。
勝ったらどうしよう!
優勝だよ!!!
なんて、コメントしよう
こんなことを考えてしまうかもしれません。
でも、試合はまだ終わっていません。
なのに、勝ったあとの未来のことを考えていては、目の前のポイントなど取れる
はずがありません。
・大切なポイント(たとえばタイブレーク)を落とすとがっかりします。
もうすこし前に仕掛けていれば・・・
あそこは、大事に行くべきだった・・・
あのジャッジはどう考えてもおかしい・・・
こんなことを考えてしまうかもしれません。
でも、それはもう済んだことです。
なのに、変えることができない過去のことを考えていては、目の前のポイントなど取れる
はずがありません。
大切なのは、置かれた状況の中で、今できる最善のことは何なのか?これを考える続ける
ことなのです。
「ソリューションフォーカスアプローチ」なんていう言葉もあります。
「どうなりたいか」「何を手に入れたいか」という未来イメージを創造する過程を先行させ、
そこから目の前の具体的行動を変化させるように導くプロセスのことです。
【なつどうふ:冷静に、かつ、柔軟に自分の感情をコントロールするプロセス】
「ソリューションフォーカスアプローチ」と聞いても、自分にできそうとはなかなか
思えませんよね?
そこで、誰にでも真似できる質問を考えました。
例えば、テニスの場合だったら、1ポイント終わるたびに、自問自答するのです。
その質問の頭文字をとって「なつどうふ」と読んでいます。
冷奴のような冷静な感情、
豆腐がもつ柔軟な気持ち、
こんなものをイメージして頂ければと思います。
ポイントが終わったら・・・
「な」 ー 何が起こった? (終わったポイントを振り返ります)
「つ」 ー 次はどうなりたい? (次に起こしたいことをイメージします。
成功を繰り返すことなのか、失敗を減らすことなのか)
「ど」 ー どんな作戦でいく? (起こしたいことを本当に起こすための具体的な
方法を考えます)
「う」 ー うまくいきそう? (それをやればうまくいくのか?強気すぎ、弱気
すぎ、ワンパターン過ぎではないかを確認し、軌道修正します)
ここまでを頭の中でさっと考えます。30秒くらいと思ってください。
最初は2、3分かかるかもしれませんが、練習すれば、できるようになります。
そうしたら、次のポイントが始まります。
「ふ」 ー 深く考えすぎずに、思い切りプレー。
分析して考える時間と、作戦実行する時間はきちんと切り分けることが大切です。
頭から意識的に指令を出して、体を動かそうとしてもぎこちなくなるだけです。
考えを一度、頭にインプットしたら、あとは本能に任せてやるのが一番です。
ポイントが終わったらまた「なつどうふ」のプロセスを繰り返します。
この質問を繰り返すことが習慣になると、過去のことや、未来のことを考える暇が
そもそもなくなるのです。なぜかというと、人は2つのことを同時には考える
ことができないからです。
【目覚しい結果を出した高校テニス部の例、小学生サッカーチームの例】
こんな簡単なことですので、実は錦織選手でなくても、マイケルチャンでなくても
実践できます。
ある高校のテニス部の顧問の先生には、目標設定や、「なつどうふ」のプロセスを
ご紹介しました。私が現地にいって指導したのはたったの2回だけです。
そして、昨年県大会本選で初戦敗退だったテニス部が、その年はベスト8、県の
第2シードチームと当たるまで勝ち続けたのです。
動画(私自身が話しているものです)はこちらです。
・「もし高校の女子テニス部がゴールドラットの思考プロセスを使ったら」
(高校女子テニス部躍進のものがたり)
VIDEO
私はサッカーについては、ほぼ素人なのですが、小学生のサッカーチームの監督さん
と組んで、テニスよりも人数が多いチームスポーツにも同様の方法を取り入れました。
県下随一の強豪チームと練習試合をすると、0-10で負けるようなチームでしたが、
次の年には同じチーム相手に、0-2の試合ができるまでになりました。
この成果の一部は、目標設定と「なつどうふ」の力であると監督も評価しています。
動画(こちらも私自身が話しているものです)はこちらです。
・自主性を育むスポーツのチーム作りと指導の実例
(小学生サッカーチーム全体のメンタルタフネス改善)
VIDEO
【勝ちP オンラインアカデミー】
マイケルチャン氏のコーチ加入、メンタルの強化、そして錦織選手の躍進。
たった2回の訪問で劇的に強くなったテニス部やサッカーチーム。
これは、一体何を意味しているのでしょうか?
私はこういうことだと思っています。
・競技に必要な技術は、その競技に携わる人ならみんな練習している。
だからこそ、技術で相手をはるかに凌ぐ差をつけるのは難しい。
・メンタルコントロールの3つの技術は、ほんのひと握りの人しか実践していない。
だからこそ、これを身につけると、今現在のレベルを土台にして、驚きの成長を実現できる。
今回ご紹介したメンタルコントロールのすべてを、身につけることができるオンライン
スクールがあります。オンラインですので、どこに住んでいても受講できます。
さらに、目標設定と練習計画、状況分析に基づく作戦シート、そして映像分析に基づく
アドバイス、戦術・テクニック指導などの指導も受けることが可能です。
興味がございましたら、
【勝ちP オンラインテニスアカデミー】
http://www.global-optimum.com/tennis-academy.html
のホームページを是非ごらんください。
もし、テニス以外の競技の方で、興味を持った方がおりましたら、
http://www.global-optimum.com/toiawase.html
よりお問合わせください。
(付録:メンタルコントロールと制約理論(TOC))
先に、メンタルを強くする3つの条件として
1.達成するのが困難な、高いところを目指している
2.手を抜くことなく、徹底的に準備をしている
3.「今、ここ」だけに意識を合わせることができる
を挙げました。
実は、これは制約理論(TOC)と呼ばれるマネジメント理論を実践する中でも
当たり前にように使われているのです。
つまり、ビジネスでもスポーツでも、同じように使えるということです。
【高いところを目指す】
高い目標を設定することの大切さは、誰も否定しないでしょう。
問題は、目標が高すぎると感じて「どうせ無理」というネガティブな感情が
浮かんでしまうことです。
目標は高いけれど、それでいて、十分に実現できると思える。
こうならないとなりません。
そのためには、目標に至る障害を洗い出し、中間目標を設定して、高いゴールに
向けて、何をどんな順序で行っていくのかを設計する必要があります。
このツールは「アンビシャス・ターゲット・ツリー」と呼ばれています。
先に紹介した、高校テニス部や、小学校のサッカーチームでも使われたもので、
子どもでも使えるくらいにシンプルな道具です。
○○までに、新規事業で、売上○○億円達成!
このような目標であったとしても、同じ道具を使うことができます。
【徹底的な準備】
スピードが早いビジネスの現場では、「走りながら考えろ」と言われたり、
「とりあえずやらないと」という気持ちが湧いてきたりしがちです。
一方で、本当にやりたいと思っている仕事が
・まだ、上司の承認がおりていないから、進められない
・協力会社に依頼している仕事がなかなか帰ってこないので、進められない
・キーパーソンの時間をもらいたいのだけど、日程調整がつかず2週間待ち
なんてこともないでしょうか?
早くやれと言われるし、早くやりたい。
でも、やろうと思うと、滞る。
こんな状況も、あらかじめ、仕事の徹底的な準備、段取りを整えておくことで
多くは避けることができるのです。
そのためにやることはシンプルです。
「これさえ揃っていれば、あとは仕事が流れるように進む」
こんな条件を満たすようなリストを作って、そのリスト項目を全部揃えることに
まずは集中、全部そろったら残りの仕事を終わらせることに集中するのです。
スポーツでも分析する時間と、プレーする時間をきちんと分けたように、
仕事でも、段取りをする時間と、実作業をする時間をきちんと分けると効果
絶大です。
【「今、ここだけ」を意識する】
仕事というものは、計画した通りにはなかなか進まないものです。
(もし、進むのであれば、世の中から赤字の会社や部門はなくなるはずですね。)
でも、本当はかなり前から起こっていた問題が、長いあいだ隠されていたとしたら
計画が大きく狂っても驚きではありません。
大抵の場合は、問題が発覚したときはもう手遅れということになっているからです。
その時になって、「なんで、こんなことになってるんだ~。なんとかしろ~」と
叫んでも、部下を怒鳴りつけても、どうにもなりません。
もし、仕事というものは、計画した通りにはなかなか進まないものであるならば、
問題が発生した瞬間に問題が認識できるようにし、問題が認識できた瞬間に対策が
必要がどうかを判断し、対策が必要であればすぐに実行するようにする。これしか
ありません。
今、何に取り組むべきなのか。今、やらなくてもいいことは何なのか。これが
分かりさえすれば、仕事のほとんどは予定どおりに進み、また大きな問題があっても
手を打つ時間を確保することができます。
スポーツでは、「なつどうふ」の質問を使って、「今、何がおきているか」をまずは
把握します。それができれば、対策を考えることができるからです。
ビジネスの世界でも、「今、何がおきているか」を見えるようにするツールが存在
しますね。生産現場に何が起きているか、プロジェクトに何が起きているか、在庫に
何が起きているか。そんなツールが存在しています。その本質は、見えるようにする
ことではなく、現実を直視して、変えることができる今にフォーカスして、ベストと
思える判断を素早く下すことにあるのです。