ゴールドラット博士が最後に残した仕事である「マネージメントの科学」。これを博士の息子であるラミ・ゴールドラット氏が来日の際に、TOC放課後セミナーで詳細に解説してくれた。以下が、その時のメモである。
マネージメントアテンションが組織の最大の制約である。マネージメントの時間は有限であるが、その時間が本当に必要なことに使われずに、無駄にされているということだ。
では、「本当に必要なこと」とは何か?組織が繁栄し続けるには、成長と安定が不可欠である。成長をあきらめたらどうなるだろう?時とともにその組織は衰退の一途をたどることだろう。だとすると、そのような組織が安定して存在できるはずがない。一方で、安定がなかったら?立ち上がったばかりの組織は急拡大を見せることが少なくない。しかし、事業が拡大しても、それを支える人が十分にいなかったり、業務の手順がしっかりと定まっていなかったりしたら組織は機能せずに空中爆発を起こすことになる。成長と安定は互いに互いを必要としているのだ。
つまり、「成長と安定」をもたらすための活動が「本当に必要なこと」であり、それ以外はマネージメントアテンションへ害を及ぼすものとなるのだ。もう少し噛み砕くと、「成長と安定」をもたらすための活動とは、競合が真似できないような圧倒的な競争力を身に付け、それを活用して収益を上げ、さらにそれを持続するための活動だ。
それ以外の活動はマネージメントアテンションへ害を及ぼすものとなる。それがどんなものかは、例を上げなくとも、経験からわかるだろう。それよりも、それがどのようなメカニズムで生まれるのかを分析することに意味がある。
ゴールドラット博士の考えはこうだ。害を及ぼす根本は3つある。
1.複雑さに対する恐れ
2.知らないことへの恐れ
3.対立への恐れ
1 人は、物事は複雑と思っていると、それをマネージするために、複雑なものを単純なものに分解し、個別にマネージしようと考える。しかし、その結果、これが個別最適と複雑な全体の最適が一致しなくなったり、ある部分と別の部分の利害が対立したりする。
2 人は、よく知らないことがあると、なるべく細かく計画を立て、あたかもそれを「知っている」かのように扱おうとする。しかし、その結果、些細なこと(ノイズ)に反応してしまったり、ルールにしがみついた行動をとったりするようになる。
3 人は、対立があると、どこかに妥協点を見出そうと苦労をする。そもそも対立が解消できると考えずに、対立ありきで妥協点を見つけようとするので、いつまでもすっきりとした妥協点は見いだせずに、考えがぶれたり、目先にことだけに対処したりしてしまう。
これら3つが、マネージメントのアテンションを本来集中すべきものから奪ってしまうのだ。
だとすると、組織がやるべきことは次の3つとなる。英語では、Subordinateと言う言葉を使うが、これは「命令して従わせる」と言う意味であり、「連携する」とか「合わせる」といった言葉よりも相当に強い意思が含まれた言葉である。組織に命令を下し、以下のルールに従わせなければならないと言っているのだ。
1 部分最適と全体最適を一致させる
2 バッファを管理する
3 対立の根本を解決する